2024/03/19
コラム
今回は地下水監視マネジメントにおけるモニタリングの手法として干渉SAR解析を用いた変位計測技術を紹介します。第2回で地盤沈下観測の事例で衛星データの活用について触れましたが、衛星データの活用のメリットや活用例を紹介します。
地番沈下は発生すると元にもどらない現象ですので、継続的な監視による早期の発見が重要です。国や地方公共団体が水準測量による監視がおこなわれていますが、水準測量を用いた地盤沈下の監視は多くの費用や人員が必要で、水準測量による監視が困難な状況になりつつあります。
そこで、監視体制を維持しつつ、効率的かつ効果的な地盤沈下の観測技術の一つとして人工衛星データを活用した監視が近年注目されています。
環境省が発行した「地盤沈下観測等における衛星活用マニュアル」には、干渉SAR解析を用いた監視に関する技術情報や導入手順が記載されています。地盤沈下監視マニュアルより以前に出た地盤沈下監視ガイドラインでも「これまでと同様の整備や成果が得られるのであれば新たな観測技術を導入あるいは併用することができる」という記載があり、衛星を使った干渉SAR解析による地番沈下監視に取り組んでいこうという流れがあります。
干渉SAR解析を用いるメリットとして 4つが挙げられます。
・過去に遡ることができる
・面的に計測できる
・広い範囲を一度に観測できる、
・精度よく解析できる
人工衛星は過去に撮り貯めたデータを利用することで以前の状況を把握することもできます。また、観測衛星では面的にデータを取得でき地盤全体の状況を把握することができます。特に広域の地盤沈下を観測する際、一番のメリットはカバー範囲が広いことです。例えばGNSSは定点、カメラなら1キロ程度、航空レーザーは20キロメートル程度の範囲になりますが、衛星はそれと比較して倍以上の広さを一度の観測でデータを取得することができます。面的な計測可能な技術で衛星に勝るものはありません。
先ほど紹介した環境省の地盤沈下マニュアルを活用して静岡県が都道府県で初のSAR解析を使った地盤沈下調査に取り組みました。水準点周辺の限定的な観測ではなく面的な把握がしたいというニーズがあり、干渉SARを使って面的にデータを捉えることで、調査対象範囲を199平方キロメートルから1380平方キロメートルまで拡大することができました。広域を一度に調査することで調査範囲面積あたりの費用を大幅に低減することができます。またこれまで予算の制約で調査周期が3年から8年に1回のペースでしたが、3年に1回の調査実施が可能となりました。これにより異常箇所を早期に把握できるようになります。
従来の水準測量では幹線と支線の測量結果から変位の広がりを推測していましたが、水準点のない場所の沈下の有無はわからないといった課題がありました。
干渉SAR解析では、沈下が発生していない幹線の水準測量を削減する代わりに、SARを使って面的に把握することで、抜け漏れなく変位を抽出します。但し、干渉SAR解析は2時期の相対的な変化しかとらえられないため、絶対値として水準測量が必要になります。水準測量で補いながら干渉SARを併用した沈下量を把握することがポイントです。また、水準測量と干渉SARを併用することでコスト削減効果も見込めます。
SAR解析を用いた場合の地盤沈下量調査の業務成果物は水準測量と同様の方法で納品することができます。また、地盤沈下量分布図については、データフォーマットをGIS ソフト上で利用できる形式とすることも可能です。地形や地質等と重ね合わせて地盤沈下の要因を考察することもできますので、データ活用の幅が広がることが期待できます。こういった意味でも衛星データの活用の取り組みが進むと考えています。
成果品 | データ形式 |
---|---|
地盤沈下面積一覧 | Excel形式 |
水準点別地盤沈下量一覧表 | Excel形式 |
地盤沈下量分布図 | Shapefile形式、Geotiff形式 |
こちらは実際の干渉SAR解析の結果です。変位が発生していないところは水色、変位が発生しているところは紫や黄色になります。
千葉県の房総半島の広域に観測したデータです。これをみると九十九里など太平洋側で変位が発生していることが分かります。
国際航業では、SAR衛星に限らず、異なる計測技術を組み合わせたマルチ・モニタリングサービスを提供しています。局所から広域まで様々なスケールで計測できるサービスです。地下水マネジメントをはじめとしたインフラDXで活用いただけます。
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